むかしむかし、あるところに、とてもなまけ者(しゃ)の男(おとこ)がいました。
男は近所(きんじょ)の大旦那(おおだんな)の家で働いていましたが、少しでも金が入るとすぐ遊んでしまうので、いつもお金がありません。
大旦那: 老太爷。(雇い人などが主人の父親を呼ぶ敬称。親だんな。)
ですからすぐに大旦那のところ行っては、「旦那さま。必ず(かならず)お返し(かえし)ますから、お金を貸してください」と、お金を借りて来るのです。
ですが借りたお金は、まだ一度も返した事はありません。
さて、もうすぐお正月(しょうがつ)だというのに、男の家には食べるお米(おこめ)がなくなってしまいました。(困ったな。さすがの大旦那も、これ以上は貸してくれそうにないしな。何かよい言い訳でもあれば別だが)
頭をかかえ込んで考えた男は、ある名案を思いつきました。「そうだ!これならうまくいくぞ!」
名案(めいあん):好主意。妙计。
そしてその名案をおかみさんに話すと、さっそく(早速)おかみさんを大旦那の家に行かせました。
おかみさん :主妇。女主人。妻子。夫人
おかみさんは大旦那の家にやって来ると、いかにも悲し(かなし)そうな顔で大旦那に言いました。「大旦那さま。実は昨日、うちの主人(しゅじん)が死にました。家には今日食べるお米もありません。どうか、お米を一俵(いっぴょう)、貸してください」
いかにも:实在,真(的)。(ほんとうに。)
それを聞いた大旦那は、ぴっくりです。「何と!あれほど元気だったのに、人間(にんげん)の運命(うんめい)とは分からぬものだな。よしよし、何も心配はいらないよ。お前の家には貸しがいっぱいあるけれど、米の一俵ぐらい。いや、そこに米が三俵あるから、全部持っていくがよい」
大旦那はおかみさんに同情(どうじょう)して、三俵のお米の他(ほか)に、大金まで貸してくれました。
さて、三俵のお米と大金を手に入れた男は大喜びで、しばらくは何不自由(ふじゆう)なく暮らしていました。
大喜び(おおよろこび):非常欢喜。(非常に喜ぶこと。)
しばらく:暂时,不久,动作或状态的短暂持续。
でも少しも働かないので、そのうちにお金もお米もなくなってしまいました。
そこでまた働きに行こうと、大旦那の家の前まで行ったのですが、「待てよ。このまま大旦那のい家にいっては、死んだと言ったうそがばれてしまうぞ。しかし、働かないと本当に飢え(うえ)死にしてしまうし」
男がどうしようかと、大旦那の家の前でウロウロ(うろうろ)していると、大旦那が突然(とつぜん)家から出てきました。
うろうろ: 心神不安;急得团团转;徘徊;无目标地走来走去。
(しまった、見つかったか)男は大あわてで、近くの草(くさ)むらの中へ隠れ(かくれ)ました。
しかし、男の姿(すがた)をはっきりと見た大旦那は、ため息(いき)をつきながら隠れている男に言いました。「おいおい、よりにもよって死んだなんて、うそをつくにもほどがあるぞ。さあ、出て来い」
「・・・・・・」
男が出て来ないので、大旦那は草むらのそばにやって来ました。
すると男は、大旦那に手を合わせて言いました。「いえ、うそなんかついていません。こうして、草葉(くさば)のかげ(影)からおかんでおります」
ちなみに草葉のかげからというのは、なくなった人の事をいう時に使う言葉(ことば)です。
ちなみに:顺便,附带。